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資源枯渇の脅威
地球を読む  資源枯渇の脅威
読売新聞 2006年5月14日(日曜日)の記事から
杭州から帰りのJAL機上にて、目にした記事は地球環境を論ずる上でさけて通れないテーマであると考え、すでに読まれた方も多いと思いながら紹介しておきたい。

レスター・ブラウン 米地球政策研究所理事長
現在の地球文明が歩んでいる経済の道は、環境を維持できるものではない。このまま行けば経済は停滞し、究極的には崩壊に至るだろう。
森林破壊、砂漠化、地下水の減少、土壌の侵食、漁獲の激減、気温の上昇、万年氷の融解、破壊的な暴風雨の増加など、人間に起因する環境変化によって、地球規模の経済は徐々に損なわれている。環境科学者たちは、前々から、そう言い続けてきた。
 いかなる社会も、基盤となる環境が悪化すれば生き延びることはできない。経済の再構築が必要となる。そのことを、まだ多くの人々は認識していない。
 だが、状況は変わりつつある。もっとも基本的な資源の消費量で、中国が米国を越えたからである。すなわち食料部門の穀類と肉類、エネルギー部門の石油と石炭を見れば、今や中国の消費量は、石油を例外として、すべて米国を上回っている。食肉は米国の2倍に近く、鉄鋼は2倍を超えている。
 これは消費の総量である。もし、1人当り消費量が米国に追いついたら、どうなるのか。中国経済が年率8%で成長し続ければ、2031年には個人所得が現在の米国並みになる。
その時、個人の資源消費量も現在の米国並みなら、現在の世界の穀類壮収穫量の3分の2相当を、推定14億5000万の中国人口が消費することになる。紙類の消費量も、現在の世界総生産量の2倍になる。地球上の森林は消滅に向かうだろう。
 もし、米国のように、中国人4人のうち3人が車を持てば、総数は11億台になる。現在の世界総台数は8億である。さらに日量9900万バレルの石油が必要になるが、現在の世界生産量は日量8400万バレルであり、大きな増産は不可能かもしれない。つまり欧米の経済モデル、石油と車に依存した使い捨て経済は、中国では成立しない。もしそうなら、2031年の予測人口が中国を上回るインドでも成立しないだろう。「米国の夢」にあこがれるそのほか30億の途上国の人々にとっても、事情は同じである。
 21世紀初めの地球文明を維持し続けるには、再生可能エネルギーに基盤を置き、多彩な交通手段を持つ、再利用とリサイクルの経済への移行が不可欠である。これまでのやり方では、望ましい方向に進むことはできない。いまや新しい経済と新しい世界を建設すべき時である。そして、その建設計画には、①文明を維持できる地球経済の再建②全力を挙げて貧困を根絶し、人口を安定させ、夢を回復して途上諸国の参加を促す③自然環境の回復に向けた組織的努力・・・・・・の3要素が含まれる。
 新しい経済の端緒は、西欧の風力発電所群や日本の太陽光発電屋根、米国で急速に増えているハイブリット車、韓国の山々の森林回復、自転車にやさしいアムステルダムの街路などに見ることができる。実際、発展を維持するための経済建設に必要なあらゆるものは、どこかの国か国々で、既に行われている。
 風力、太陽電池、太陽熱、地熱、小規模水力発電、有機性資源「バイオマス」などの新エネルギー源の中でも、主役として台頭しているのが風力である。世界の風力発電の先頭に立つ欧州では、いまや4000万人ほどが、住宅用電力を風力発電で得ている。欧州風力エネルギー協会(EWEA)の予測によれば、2020ねんまでに、地域人口の半分に当る1億9500万の欧州人が、住宅用の電力をまかなうようになるという。風力エネルギーの急速な成長には、六つの理由がある。豊富に存在し、安価で枯渇せず、広く分布し、清潔、かつ気候にやさしい。これほど長所のそろったエネルギー源は、他にない。
 経済的発展を維持するような経済の建設には、世界的な協調と努力が求められる。それは、貧困を根絶し、人口を安定させ、ひいては世界の貧しい人々に、新たな希望をもたらすことを意味する。貧困の根絶は、家族構成の小型化を促す。そしてちいさくなった家族が、今度は貧困の根絶に貢献する。
 貧困根絶のためのよさんの必須項目は、小学校教育の普及のための投資、最貧層の子供たちへの学校給食、小児病ワクチンを含む村落レベルの基本医療、そして、全世界的の女性のための産科医療と家族計画サービスである。これらの目標を達成するには、あわせて年間680億ドルの追加資質が必要になる。
 もし経済を支える環境基盤が崩壊し続けるなら、貧困根絶のための戦略は成功しない。それは、地球環境回復の予算を結集させることを意味する。地球の森林を回復し、漁獲を回復し、過放牧をなくし、生物学的多様性を保護し、そして水資源の利用効率を高め、地下水位を安定させ、河川の流量を回復しなければならない。こうした処置を全世界が採用すれば。年間930億ドルの追加資質が必要である。
 かくして、社会目標を達成し地球環境を回復させる新たな計画のために、あわせて1610億ドルの支出が求めれれる。これは巨額の投資である。決して慈善行為ではない、われわれの子供たちが生きる世界への投資である。
 世界は今、年間9750億ドルを軍事目的に使っている。だが、経済を脅かし、ひいては「21世紀初頭の文明そのものを脅かす
方向に進んでいる環境の破壊と変動に比べれば、国家安全保障に対する現在の軍事的脅威などちっぽけなものである。
 新しい脅威には、新しい戦略が求められる。その意味で米国の軍事予算は完全に的外れである。米国が4920億ドルの軍事資質を流用し新計画のための1610億ドルを全額負担してもなお、他の北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国とロシアと中国を合わせた軍事支出を上回る金額が手元に残る。
 新しい経済を建設する上で
、最も不足している資源は時間である。気候変動に伴いわれわれは逆戻りできない刻限に近づいているのかもしれない。時計を巻きなおしたくてもわれわれにはできない。時を決めるのは、地球の自然なのである。
 いまや決断の時だ。われわれの置かれた状況の深刻さとわれわれがおこなおうとしている決断のじゅうようせいは,筆舌に尽くしがたい。迅速な行動の必要性をどうすれば伝えられるのか。明日では遅すぎる、といえばよいのだろうか。
 この決断は、何らかの形で、われわれの世代が行うことになるだろう。そのことにほとんどの疑問の余地は無い。しかしながらその決断が、今後すべての世代にわたり地球上の生命に影響を与えることになるのである。

レスター・ブラウン
1934年米国生まれ。農務省局長を経て、74年ワールドウオッチ研究所所長。2001年5月から現職
by harutokobayashi | 2006-06-01 12:20 | 設景の思想
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